像の次元と行列のランクから理解する線形写像の基礎

線形代数における像の次元と行列の関係について解説します。行列の像とランクの関係、次元定理の応用、そして表現行列の計算方法まで詳しく説明していきます。あなたは線形写像の本質を理解できているでしょうか?

像の次元と行列のランクの関係性について

像の次元と行列のランク
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線形写像の基本概念

線形写像は線形代数の重要な概念で、ベクトル空間間の関係を表します。行列を用いて表現することができ、その像の次元はランクと一致します。

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像とランクの関係

行列Aの像Im(A)の次元は、行列Aのランクと等しくなります。これは線形代数における基本的な性質です。

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次元定理の応用

次元定理により、n次元空間からm次元空間への線形写像において、像の次元とカーネルの次元の和は元の空間の次元に等しくなります。

像の次元とは何か:基本的な定義と性質

線形代数において、行列の像(イメージ)は非常に重要な概念です。$m \times n$行列$A$に対して、その像$\text{Im}(A)$は、$A$を左からベクトルにかけて得られるすべてのベクトルの集合として定義されます。

 

具体的には、$\text{Im}(A) = {A\vec{x} \mid \vec{x} \in \mathbb{R}^n}$と表されます。これは、$A$による変換後に得られる可能なすべての出力ベクトルの集合です。

 

像の次元$\dim(\text{Im}(A))$は、線形独立な列ベクトルの最大数に等しく、これは行列$A$のランク$\text{rank}(A)$と一致します。つまり。
$\dim(\text{Im}(A)) = \text{rank}(A)$
この関係は線形代数の基本的な性質であり、行列の列空間の次元がランクに等しいことを示しています。

 

例えば、行列$A = \begin{pmatrix} 1 & 2 \ 2 & 1 \ 1 & 0 \end{pmatrix}$を考えると、$A$の列ベクトルは$\begin{pmatrix} 1 \ 2 \ 1 \end{pmatrix}$と$\begin{pmatrix} 2 \ 1 \ 0 \end{pmatrix}$です。これらは線形独立なので、$\text{rank}(A) = 2$であり、したがって$\dim(\text{Im}(A)) = 2$となります。

 

行列のランクと像の次元の計算方法

行列のランクと像の次元を計算するには、いくつかの方法があります。最も一般的な方法は、行列を行簡約形(Row Echelon Form)または簡約行階段形(Reduced Row Echelon Form)に変換することです。

 

行列$A$のランクを求める手順。

  1. 行列$A$を行簡約形に変換する
  2. 非ゼロ行の数を数える(これがランク)

例として、$A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \ 2 & 1 & 3 \ 1 & 0 & 1 \end{pmatrix}$というケースを考えましょう。

 

行簡約を行うと。
$\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \ 2 & 1 & 3 \ 1 & 0 & 1 \end{pmatrix} \rightarrow \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \ 0 & -3 & -3 \ 0 & -2 & -2 \end{pmatrix} \rightarrow \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \ 0 & 1 & 1 \ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}$
非ゼロ行は2行あるので、$\text{rank}(A) = 2$であり、$\dim(\text{Im}(A)) = 2$となります。

 

また、像の基底を求めるには、行列$A$の列ベクトルから線形独立な最大集合を見つけます。上の例では、$A$の最初の2つの列ベクトルが線形独立なので、像$\text{Im}(A)$の基底は${\begin{pmatrix} 1 \ 2 \ 1 \end{pmatrix}, \begin{pmatrix} 2 \ 1 \ 0 \end{pmatrix}}$となります。

 

線形写像の表現行列と像の関係性

線形写像$f: V \rightarrow W$を考えるとき、$V$の基底${\vec{v}_1, \vec{v}_2, \ldots, \vec{v}_n}$と$W$の基底${\vec{w}_1, \vec{w}_2, \ldots, \vec{w}_m}$を選ぶと、$f$は$m \times n$行列$A$で表現できます。この行列$A$を「表現行列」と呼びます。

 

表現行列$A$の$(i,j)$成分$a_{ij}$は、$f(\vec{v}j) = \sum{i=1}^{m} a_{ij} \vec{w}_i$という関係から決まります。つまり、$f(\vec{v}_j)$を$W$の基底で表したときの係数が表現行列の要素となります。

 

例えば、線形写像$f: \mathbb{R}^2 \rightarrow \mathbb{R}^3$が$f\begin{pmatrix} x_1 \ x_2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} x_1 + 2x_2 \ 2x_1 - x_2 \ x_1 \end{pmatrix}$で定義されているとします。標準基底に関する表現行列は。
$A = \begin{pmatrix} 1 & 2 \ 2 & -1 \ 1 & 0 \end{pmatrix}$
となります。この行列$A$の像$\text{Im}(A)$は、$A$の列ベクトル$\begin{pmatrix} 1 \ 2 \ 1 \end{pmatrix}$と$\begin{pmatrix} 2 \ -1 \ 0 \end{pmatrix}$によって生成される部分空間です。

 

重要なのは、表現行列が変わっても、線形写像の像の次元は変わらないということです。基底を変更すると表現行列は変わりますが、ランクは保存されるため、像の次元も保存されます。

 

次元定理と像の次元の応用例

線形代数の基本定理の一つである次元定理(ランク・ヌルティ定理)は、$n$次元ベクトル空間$V$から$m$次元ベクトル空間$W$への線形写像$f$について、以下の関係を示します。
$\dim(\text{Ker}(f)) + \dim(\text{Im}(f)) = \dim(V)$
ここで、$\text{Ker}(f)$は$f$の核(カーネル)で、$f$によって0に写されるベクトルの集合です。

 

この定理の応用例として、$3 \times 4$行列$A$のランクが2の場合を考えましょう。次元定理より。
$\dim(\text{Ker}(A)) + \dim(\text{Im}(A)) = 4$
$\dim(\text{Im}(A)) = \text{rank}(A) = 2$なので、$\dim(\text{Ker}(A)) = 4 - 2 = 2$となります。

 

これは、$A$の核が2次元の部分空間であることを意味します。つまり、$A\vec{x} = \vec{0}$を満たす解空間は2次元であり、基底を2つのベクトルで表すことができます。

 

次元定理は、線形方程式系の解の構造を理解するのに役立ちます。例えば、$A\vec{x} = \vec{b}$という線形方程式系において、$\vec{b} \in \text{Im}(A)$の場合にのみ解が存在し、その場合、解は$\text{Ker}(A)$の次元に依存して無数に存在することがあります。

 

像の次元と行列の対角化による固有空間の分析

行列の対角化と固有空間は、像の次元の理解をさらに深めるための重要な概念です。$n \times n$正方行列$A$が対角化可能であるとき、$A = PDP^{-1}$と表せます。ここで$D$は対角行列で、対角成分は$A$の固有値です。

 

行列$A$の固有値が$\lambda_1, \lambda_2, \ldots, \lambda_k$(重複を含む)であるとき、$\lambda_i \neq 0$の固有値の数(重複度を考慮)が$\text{rank}(A)$に等しくなります。つまり、非ゼロ固有値の数が像の次元を決定します。

 

例えば、$A = \begin{pmatrix} 1 & 0 \ 0 & 0 \end{pmatrix}$という行列を考えると、固有値は$\lambda_1 = 1$と$\lambda_2 = 0$です。非ゼロ固有値は1つだけなので、$\text{rank}(A) = 1$であり、$\dim(\text{Im}(A)) = 1$となります。

 

この関係は、$A - \lambda I$の核(固有空間)の次元と密接に関連しています。$\lambda_i$に対応する固有空間の次元は、$A$の像の構造に影響を与えます。特に、$\lambda = 0$に対応する固有空間が$A$の核となり、その次元は$n - \text{rank}(A)$です。

 

固有空間の分析は、反復計算や微分方程式の解法など、多くの応用分野で重要です。例えば、マルコフ過程では、遷移行列の固有値と固有ベクトルが長期的な状態分布を決定します。最大固有値に対応する固有ベクトルが、システムの平衡状態を表します。

 

以上のように、像の次元と行列のランクは、線形代数の様々な概念と深く結びついており、理論的な理解だけでなく、実践的な問題解決にも役立つ重要な概念です。

 

行列の像の定義と計算方法についての詳細な解説
名古屋大学の線形写像に関する講義資料(基底の表現行列、像と核、次元定理)
行列の像と次元の理解は、線形代数の基礎を固めるだけでなく、データ科学や機械学習、量子力学など多くの分野での応用にも繋がります。特に特異値分解(SVD)や主成分分析(PCA)では、行列の像の次元が重要な役割を果たします。これらの手法は高次元データの次元削減や特徴抽出に広く使われており、像の次元の概念が実践的に活用されています。

 

また、線形方程式系$A\vec{x} = \vec{b}$の解の存在と一意性は、$A$の像と核の性質に直接関連しています。$\vec{b}$が$A$の像に含まれるかどうかで解の存在が決まり、$A$の核の次元によって解の一意性が決まります。これは工学や物理学における多くの問題解決の基礎となっています。

 

このように、像の次元と行列のランクの関係性を理解することは、理論的な美しさだけでなく、実世界の問題を解決するための強力なツールを手に入れることにも繋がるのです。