表現行列とは群と線形写像の関係

表現行列は群論と線形代数の橋渡しをする重要な概念です。群の要素を行列で表現することで、抽象的な群の性質を具体的に扱えるようになります。表現行列の応用は数学から物理学まで幅広いですが、その本質とは何でしょうか?

表現行列とは群の線形写像による表現

表現行列の基本概念
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群の線形写像

群の要素を行列で表現し、群の構造を保持

🔄
群の性質の保存

群の演算が行列の積で表現される

🧮
抽象から具体へ

抽象的な群を具体的な行列で扱える

表現行列の定義と基本的な性質

表現行列は、群論と線形代数を結びつける重要な概念です。群G の各要素 g に対して、ベクトル空間 V 上の線形変換 T(g) を対応させる写像 T: G → GL(V) を考えます。ここで、GL(V) は V 上の可逆線形変換全体の集合を表します。

 

この対応が以下の条件を満たすとき、T を群 G の表現と呼びます。

  1. T(gh) = T(g)T(h) (群の演算が保存される)
  2. T(e) = I (単位元 e は恒等変換 I に対応)

表現行列は、この線形変換 T(g) を行列として表現したものです。つまり、基底を固定すれば、各群要素 g に対して一つの行列が対応します。

 

表現行列と群の同型性の関係

表現行列は、群の構造を行列の世界に写し取るものです。この対応が忠実であるほど、元の群の性質をよく反映します。

 

  • 忠実な表現:T(g) ≠ T(h) となる表現(群の要素が一対一に対応)
  • 既約表現:これ以上分解できない表現(群の基本的な構造を反映)

群の同型性を調べる際、表現行列は非常に有用なツールとなります。同型な群は、同じ表現行列を持つことがあります。

 

表現行列の応用例:物理学における対称性

表現行列は、物理学において対称性を記述する際に重要な役割を果たします。例えば。

  1. 結晶構造の対称性:空間群の表現
  2. 素粒子物理学:ゲージ群の表現
  3. 量子力学:回転群 SO(3) の表現

これらの応用では、物理系の対称性を群で表現し、その群の表現行列を用いて具体的な計算を行います。

 

物理学における群論と表現論の応用についての詳細な解説

表現行列の計算方法と具体例

表現行列の計算は、群の要素をどのように線形変換として解釈するかに依存します。以下に、いくつかの具体例を示します。

  1. 回転群 SO(2) の表現。

    2次元平面上の回転を表す2×2行列

    R(θ) = [cos(θ) -sin(θ)]
    

    [sin(θ) cos(θ)]

  2. 置換群 S3 の表現。

    3つの要素の置換を表す3×3の置換行列

  3. リー群 SU(2) の表現。

    2×2のユニタリ行列で行列式が1のもの

表現行列の計算には、群の性質を深く理解し、適切な基底を選択することが重要です。

 

表現行列と既約表現の関係性

既約表現は、表現行列を理解する上で核心的な概念です。既約表現とは、これ以上分解できない基本的な表現のことを指します。

 

  • 既約表現の特徴。
    1. 不変部分空間を持たない
    2. 群の基本的な構造を反映
    3. より複雑な表現の構成要素となる

任意の表現は、既約表現の直和に分解できます(完全可約性)。この性質により、複雑な表現を基本的な部分に分解して理解することが可能になります。

 

既約表現の分類は、群の構造を理解する上で非常に重要です。例えば、有限群の既約表現の個数は、群の共役類の数に等しいという定理があります。

 

群の表現論と既約表現についての詳細な解説

表現行列とテンソル積の関係

表現行列の概念は、テンソル積と密接に関連しています。二つの表現 V と W のテンソル積 V ⊗ W も、新たな表現を与えます。

 

テンソル積表現の表現行列は、元の表現行列のクロネッカー積として与えられます。

(V ⊗ W)(g) = V(g) ⊗ W(g)

ここで、⊗ はクロネッカー積を表します。

 

テンソル積表現は、物理学や量子情報理論において重要な役割を果たします。例えば。

  1. 角運動量の合成:スピン系の合成状態の記述
  2. 量子もつれ:複合量子系の状態空間の構造
  3. 対称性の拡張:新しい対称性の構築

テンソル積を用いることで、既知の表現から新しい表現を構成することができ、より複雑な系の対称性を理解するための強力なツールとなります。

 

物理学におけるテンソル積と表現論の応用についての解説
以上、表現行列について、その定義から応用まで幅広く解説しました。表現行列は、抽象的な群の性質を具体的な行列の計算に帰着させる強力な道具であり、純粋数学から物理学まで幅広い分野で活用されています。群論を学ぶ上で、表現行列の概念を理解することは非常に重要です。これらの知識は、より高度な数学や理論物理学の学習への足がかりとなるでしょう。

 

表現行列の理解を深めるためには、具体的な例を多く扱い、実際に計算してみることが効果的です。また、群論の基礎から始めて、徐々に表現論へと進んでいくアプローチも推奨されます。数学の美しさは、抽象的な概念が具体的な計算や応用と結びつくときに最もよく現れます。表現行列は、まさにその典型的な例と言えるでしょう。

 

今後の学習では、より高度な表現論のトピック(指標理論、誘導表現、Lie代数の表現など)にも挑戦してみてください。これらの概念は、現代数学や理論物理学の最前線でも活躍しています。数学の世界は広大で奥深いものですが、表現行列の理解は、その探求への重要な一歩となるはずです。