表現行列は、群論と線形代数を結びつける重要な概念です。群G の各要素 g に対して、ベクトル空間 V 上の線形変換 T(g) を対応させる写像 T: G → GL(V) を考えます。ここで、GL(V) は V 上の可逆線形変換全体の集合を表します。
この対応が以下の条件を満たすとき、T を群 G の表現と呼びます。
表現行列は、この線形変換 T(g) を行列として表現したものです。つまり、基底を固定すれば、各群要素 g に対して一つの行列が対応します。
表現行列は、群の構造を行列の世界に写し取るものです。この対応が忠実であるほど、元の群の性質をよく反映します。
群の同型性を調べる際、表現行列は非常に有用なツールとなります。同型な群は、同じ表現行列を持つことがあります。
表現行列は、物理学において対称性を記述する際に重要な役割を果たします。例えば。
これらの応用では、物理系の対称性を群で表現し、その群の表現行列を用いて具体的な計算を行います。
表現行列の計算は、群の要素をどのように線形変換として解釈するかに依存します。以下に、いくつかの具体例を示します。
2次元平面上の回転を表す2×2行列
R(θ) = [cos(θ) -sin(θ)]
[sin(θ) cos(θ)]
3つの要素の置換を表す3×3の置換行列
2×2のユニタリ行列で行列式が1のもの
表現行列の計算には、群の性質を深く理解し、適切な基底を選択することが重要です。
既約表現は、表現行列を理解する上で核心的な概念です。既約表現とは、これ以上分解できない基本的な表現のことを指します。
任意の表現は、既約表現の直和に分解できます(完全可約性)。この性質により、複雑な表現を基本的な部分に分解して理解することが可能になります。
既約表現の分類は、群の構造を理解する上で非常に重要です。例えば、有限群の既約表現の個数は、群の共役類の数に等しいという定理があります。
表現行列の概念は、テンソル積と密接に関連しています。二つの表現 V と W のテンソル積 V ⊗ W も、新たな表現を与えます。
テンソル積表現の表現行列は、元の表現行列のクロネッカー積として与えられます。
(V ⊗ W)(g) = V(g) ⊗ W(g)
ここで、⊗ はクロネッカー積を表します。
テンソル積表現は、物理学や量子情報理論において重要な役割を果たします。例えば。
テンソル積を用いることで、既知の表現から新しい表現を構成することができ、より複雑な系の対称性を理解するための強力なツールとなります。
物理学におけるテンソル積と表現論の応用についての解説
以上、表現行列について、その定義から応用まで幅広く解説しました。表現行列は、抽象的な群の性質を具体的な行列の計算に帰着させる強力な道具であり、純粋数学から物理学まで幅広い分野で活用されています。群論を学ぶ上で、表現行列の概念を理解することは非常に重要です。これらの知識は、より高度な数学や理論物理学の学習への足がかりとなるでしょう。
表現行列の理解を深めるためには、具体的な例を多く扱い、実際に計算してみることが効果的です。また、群論の基礎から始めて、徐々に表現論へと進んでいくアプローチも推奨されます。数学の美しさは、抽象的な概念が具体的な計算や応用と結びつくときに最もよく現れます。表現行列は、まさにその典型的な例と言えるでしょう。
今後の学習では、より高度な表現論のトピック(指標理論、誘導表現、Lie代数の表現など)にも挑戦してみてください。これらの概念は、現代数学や理論物理学の最前線でも活躍しています。数学の世界は広大で奥深いものですが、表現行列の理解は、その探求への重要な一歩となるはずです。