ベクトル集合の線形結合と基本概念
ベクトル集合の線形結合の基本
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線形結合の定義
複数のベクトルをスカラー倍して足し合わせた式で、線形代数の中心的概念です。
🧮
線形独立と線形従属
ベクトル集合が線形独立か線形従属かは、線形結合のスカラーが全て0になるかどうかで判断します。
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応用範囲
線形結合の概念は、ベクトル空間、行列計算、線形変換など幅広い分野で活用されています。
ベクトル集合の線形結合とは何か
線形結合(linear combination)は、線形代数学において最も基本的かつ重要な概念の一つです。簡単に言えば、複数のベクトルをスカラー(定数)倍して足し合わせたものを指します。
具体的には、ベクトル v1,v2,…,vn とスカラー c1,c2,…,cn に対して、
c1v1+c2v2+…+cnvn
という形で表される式を、ベクトル v1,v2,…,vn の線形結合と呼びます。
例えば、2次元ベクトル空間で考えると、ベクトル (1,0) と (0,1) の線形結合は、
c1(1,0)+c2(0,1)=(c1,c2)
となります。これは平面上のすべての点を表現できることを意味しています。
線形結合は、ベクトル空間の構造を理解する上で欠かせない概念であり、基底や次元といった重要な概念を定義する際にも用いられます。
ベクトル集合の線形独立性と線形従属性の判別方法
ベクトル集合が線形独立であるか線形従属であるかを判別することは、線形代数において非常に重要です。この判別は、線形結合のスカラー係数に着目して行います。
ベクトル v1,v2,…,vn に対して、
c1v1+c2v2+…+cnvn=0
という線形結合を考えます。この式が成り立つのが、すべての係数 c1=c2=…=cn=0 の場合のみであれば、これらのベクトルは線形独立であると言います。
一方、少なくとも一つの係数が0でなくても上の式が成り立つ場合、これらのベクトルは線形従属であると言います。
線形従属の場合、少なくとも一つのベクトルは他のベクトルの線形結合で表すことができます。例えば、3つのベクトル v1,v2,v3 が線形従属で、c1v1+c2v2+c3v3=0 (ただし c3=0)が成り立つ場合、
v3=−c3c1v1−c3c2v2
と表すことができます。
線形独立性の判定は、行列のランクや行列式を用いて効率的に行うことができます。ベクトル v1,v2,…,vn を列ベクトルとする行列を考え、その行列のランクが n であれば、これらのベクトルは線形独立です。
ベクトル集合の線形結合と線形スパン(線形包)の関係
ベクトル集合
S={v1,v2,…,vn} の線形結合によって表現できるすべてのベクトルの集合を、
S の
線形スパン(または
線形包)と呼び、
span(S) と表記します。
span(S)={c1v1+c2v2+…+cnvn∣c1,c2,…,cn∈R}
線形スパンは、与えられたベクトル集合から生成される部分ベクトル空間です。例えば、2次元平面上の非ゼロベクトル
v の線形スパンは、原点を通り
v の方向を持つ直線となります。2つの線形独立なベクトル
v1,v2 の線形スパンは平面全体になります。
線形スパンの重要な性質として、それ自体がベクトル空間であることが挙げられます。つまり、線形スパン内の任意のベクトルの線形結合もまた線形スパン内に含まれます。
また、ベクトル空間
V の部分集合
S が
V を生成するとは、
span(S)=V となることを意味します。
S が線形独立であり、かつ
V を生成するとき、
S は
V の
基底と呼ばれます。
ベクトル集合の線形結合の具体的な計算例と応用
線形結合の計算は、実際のベクトルを用いて具体的に行うことで理解が深まります。いくつかの例を見てみましょう。
例1:2次元ベクトル空間での線形結合ベクトル
v1=(1,2) と
v2=(3,1) の線形結合
2v1−v2 を計算します。
2v1−v2=2(1,2)−(3,1)=(2,4)−(3,1)=(−1,3)
例2:3次元ベクトル空間での線形結合ベクトル
v1=(1,0,2)、
v2=(0,1,1)、
v3=(2,1,0) に対して、ベクトル
v=(3,2,4) が線形結合で表せるかを考えます。
c1v1+c2v2+c3v3=v
これは連立方程式
\begin{align}
c_1 + 0 + 2c_3 &= 3\
0 + c_2 + c_3 &= 2\
2c_1 + c_2 + 0 &= 4
\end{align}
を解くことになります。解は
c1=1、
c2=1、
c3=1 となり、
v=v1+v2+v3 と表せます。
応用例:多項式空間での線形結合2次以下の多項式空間
R[x]2 において、多項式
p1(x)=1+x2 と
p2(x)=2−2x の線形結合を考えます。
2p1(x)−3p2(x)=2(1+x2)−3(2−2x)=2+2x2−6+6x=−4+6x+2x2
このように、線形結合は多項式空間や関数空間など、抽象的なベクトル空間でも同様に適用できます。
ベクトル集合の線形結合と線形変換の幾何学的解釈
線形結合と線形変換は密接に関連しており、幾何学的な解釈を通じてより直感的に理解することができます。
線形変換は、ベクトル空間の要素を別のベクトル空間の要素に変換する操作で、線形性(加法性と斉次性)を満たすものです。2次元平面上での線形変換は、
行列を用いて
(x′y′)=(acbd)(xy)
と表されます。これは元のベクトルの成分を線形結合して新たなベクトルを生成する操作と見ることができます。
例えば、回転変換を表す行列
(cosθsinθ−sinθcosθ)
は、ベクトル (x,y) を角度 θ だけ回転させたベクトル (xcosθ−ysinθ,xsinθ+ycosθ) に変換します。
線形変換の幾何学的な効果は、基底ベクトルがどのように変換されるかを見ることで理解できます。例えば、標準基底 e1=(1,0) と e2=(0,1) に対する変換後のベクトル T(e1) と T(e2) を知れば、任意のベクトル v=(a,b)=ae1+be2 の変換結果は
T(v)=T(ae1+be2)=aT(e1)+bT(e2)
と計算できます。これは線形結合の性質を利用しています。
このように、線形変換は基底ベクトルの変換と線形結合の概念を組み合わせることで、全体の変換を理解することができます。これは、複雑な線形変換を基本的な操作(拡大・縮小、回転、せん断など)の組み合わせとして捉える視点にもつながります。
線形結合と線形変換の関係を理解することは、コンピュータグラフィックス、信号処理、量子力学など、様々な応用分野での問題解決に役立ちます。
名古屋大学の線形代数学の講義資料 - 線形結合と線形変換の詳細な解説